東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)116号 判決 1985年8月21日
原告
壽自動車株式会社
右代表者代表取締役
永田栄吉
右訴訟代理人弁護士
巽貞男
被告
中央労働委員会
右代表者会長
石川吉右衞門
右指定代理人
萩澤清彦
同
大宮五郎
同
梅田令二
同
小林昇
同
岡治郎
被告補助参加人
全国一般労働組合大阪府本部全自動車教習所労働組合
右代表者執行委員長
家田保
右訴訟代理人弁護士
津留崎直美
同
上山勤
同
岡本一治
同
西本徹
同
河村武信
同
山口健一
同
早川光俊
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 中労委昭和五七年(不再)第九号事件について、被告が昭和五八年六月一五日付けでした命令を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 補助参加人組合は、大阪府地方労働委員会に対し、原告会社を被申立人として不当労働行為救済の申立てをしたところ(同委員会昭和五六年(不)第二五号事件)、同委員会は、昭和五七年二月九日付けで別紙(一)(略)のとおりの救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。
原告会社は、昭和五七年二月一八日、初審命令を不服として、被告に対し再審査申立てをしたところ(中労委昭和五七年(不再)第九号事件)、被告は、昭和五八年六月一五日付けで別紙(二)のとおり、原告の再審査申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発し、同命令書は同年七月七日ころ原告会社に交付された。
2 しかし、本件命令には、次のような事実誤認及び法令解釈の誤りがあり、本件命令は違法である。
(一) 誓約書への署名を求めたことについて
本件命令は、原告会社の専務取締役であり、同会社が経営する藤井寺自動車教習所の所長である西野光治(以下「西野所長」という。)が、昭和五六年四月九日に、補助参加人組合の組合員である白井英一(以下「白井」という。)及び樽口弘(以下「樽口」という。)の両名に対し誓約書への署名を求めた行為が不当労働行為であると判断しているが、原告会社は、昭和五六年四月九日に、白井、樽口に対し誓約書を示し、署名を強要したことはない。当時、誓約書はまだ成文化されていなかったから、白井、樽口に対し誓約書を呈示することはできなかった。誓約書は、それから数日後に作成して、樽口らに署名を求めたのである。また、右誓約書の内容は、右両名を含む原告会社の全従業員が昭和五五年七月一七日署名して原告会社に提出した経営方針に対する確認書の内容を再確認したものにすぎず、この点からも原告会社には何ら不当労働行為意思が存しない。
(二) 警告書を発したことについて
本件命令は、原告会社が補助参加人組合の組合員である樽口及び北川照夫(以下「北川」という。)に対し昭和五六年四月一八日付け警告書を発したこと並びに同組合員大西鶴雄(以下「大西」という。)に対し同月二〇日付け警告書を発したことが不当労働行為であると判断している。
しかし、樽口、北川に対する同月一八日付けの警告書は、西野所長が在社命令を出しているにもかかわらず、同人らが職場を放棄したことが就業規則違反であると警告しているにすぎない。本来なら、業務命令に反抗し、就労を放棄した行為は、懲戒処分の対象とすべきところ、文書による警告にとどめたものであり、正当な人事権の範囲内の行為である。すなわち、同人らが同日就労を放棄した理由は、樽口が前日負った右下腿挫傷の傷害の治療を受けに病院へ行くことであったところ、同症状は外部からは全く正常としか見えないものであり、しかも同日は土曜日で就労時間も午後二時四〇分までであったから、就労を終えてから病院へ行くことも十分可能であったこと、原告会社のすぐ近くにも、原告会社の従業員の疾病を治療してくれる特約病院があったのに、樽口らは原告会社から数一〇キロメートルも離れた病院へ行こうとしていたことなどの事実からして、同人らの就労放棄は悪意のものであり、これに警告を与えたことは何ら非難されるべきものではない。
また、大西に対する昭和五六年四月二〇日付けの警告書は、同人の同月一八日の就労放棄行為及び同月二〇日の無断欠勤行為に対し、文書でその自主規制を求めたものである。このような行為は、正当な人事権の範囲内の行為であり、不当労働行為と認定されるべきものではない。
3 なお、本件命令の理由 「第一 当委員会の認定した事実」記載の被告の認定事実に対する認否は、次のとおりである。
(一) 第1項の各事実は認める。
(二) 第2項(1)、(2)、(4)の各事実は認める。ただし、(2)の事実のうち、樽口が大西分会(補助参加人組合の分会で、原告会社の従業員で組織している。)に加入した時期は知らない。
同項(3)は争う。
(三) 第3項の各事実は認める。
(四) 第4項(1)、(2)、(3)の各事実は認める。
同項(4)の事実中、原告会社では課長に対して、賃金等労働条件で特別な待遇はしていないことは認めるが、その余の事実は否認する。
同項(5)のアの事実中、誓約書を示して署名を求めたことは否認し、その余の事実は認める。(5)のイ、エ、カの各事実は認める。(5)のウの事実中、誓約書に関する事実(当日、誓約書が既に作成されていたこと)は否認し、その余の事実は認める。(5)のオ、キ、クの各事実は否認する。
同項(6)の事実は否認する。
同項(7)、(8)、(9)の各事実は認める。
同項(10)のアの事実中、樽口が暴行を受けた事実は否認し、その余の事実は認める。(10)のイ、エの各事実は認める。(10)のオの事実は否認する。
同項(11)のアの事実中、樽口らが「正常な勤務ができない。」との趣旨の発言をしたことは否認し、その余の事実は認める。(11)のイの事実中、溝端隆(以下「溝端」という。)の発言内容は争い、その余の事実は認める。(11)のウの事実中、樽口が病院で治療を受けたことは否認し、その余の事実は認める。
同項(12)のアの事実は認めるが、イの事実は否認する。
(五) 第5項(1)、(2)、(3)、(5)の各事実は認めるが、(4)の事実は否認する。
4 よって、原告は、本件命令の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 同第2項は争う。
三 被告及び補助参加人の主張
1 被告
本件命令の理由は、別紙(二)の命令書記載のとおりであり、認定した事実及び判断に誤りはない。
2 補助参加人
(一) 誓約書への署名強要について
原告は、本件命令が認定しているような誓約書を原告会社が作成したこと、及び、これを白井、樽口に示し、署名を求めたことを認めているのであるから、その日がいつであったかはさして重要なことではない。問題は、誓約書への署名強要が原告会社によって行われたか否かである。また、誓約書の内容が不当労働行為にあたることは、これを読めば一目瞭然である。
(二) 警告書を発したことについて
樽口、北川らの行動の背景には、当時、溝端分会(総評全国一般労働組合大阪地方連合会全自動車教習所労働組合(以下「別組合」という。)の分会で、原告会社の従業員で組織している。)から同人らに加えられていた違法な糾弾行為があったのであるから、同人らの行動を論じるにはこれを考慮に入れなければならないのに、原告の主張は、これらの違法な糾弾行為に全く触れていず、不当である。
第三証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因第1項の事実(初審命令及び本件命令の存在)は、当事者間に争いがない。
二 まず、本件命令の理由の「第一 当委員会の認定した事実」において認定された事実のうち、原告の主張と関連する第1項ないし第5項の事実関係について検討する(なお、固有名詞等の表示は、本件命令書中の表示の仕方と同一とした。)。
1 第1項「当事者等」で認定された事実は、当事者間に争いがない。
2 第2項「組合と会社間の労使関係等」で認定された事実のうち、(1)、(2)(ただし、樽口が大西分会に加入した時期が昭和五三年一〇月である点を除く。)、(4)は、当事者間に争いがない。(証拠略)における樽口弘の供述によれば、同人が大西分会に加入したのは昭和五三年一〇月であることが認められる。また、(証拠略)によれば、第2項(3)の事実を認めることができる。
3 第3項「別組合と会社間の労働協約等」で認定された事実は、当事者間に争いがない。
4(一) 第4項「本件労使紛争等について」で認定された事実のうち、(1)、(2)、(3)は、当事者間に争いがない。
(二) 同項(4)のうち、会社では課長に対して、賃金等労働条件で特別な待遇をしていないことは当事者間に争いがなく、証人西野光治の証言によれば、課長は公安委員会に提出する書類を作成したり、会社内の各種の会議に出席するなどの職務上の権限を与えられている点で他の職員と異なるにすぎないことが認められる。
(三) 同項(5)アのうち、西野所長があらかじめ会社で作成した誓約書を示し、「この誓約書に署名してほしい。」との旨述べたことを除き、その余の事実は当事者間に争いがない。(証拠略)を総合すれば、西野所長が樽口、白井に対しあらかじめ会社で作成した誓約書を示し、「この誓約書に署名してほしい。」旨を述べたことが認められ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
同項(5)イの事実は、当事者間に争いがない。
同項(5)ウの事実につき、(証拠略)によれば、白井、樽口は、昭和五六年四月九日、誓約書に署名しなかったことが認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。
同項(5)エの事実は、当事者間に争いがない。
同項(5)オの事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおり認めることができる。
同項(5)カの事実は、当事者間に争いがない。
同項(5)キの事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおり認めることができる。
同項(5)クの事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおり(ただし、西野所長らが、大西分会員七名の氏名、役職名を記載した文書を樽口らに返還したことを除く。)認めることができる。
同項(6)の事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおり認めることができる。
同項(7)、(8)、(9)の事実は、当事者間に争いがない。ただし、証人樽口弘の証言によれば、樽口は昭和五六年四月一五日及び同月一六日の溝端分会員との話合いには加わらなかったことが認められる。
同項(10)アの事実につき、(証拠略)によれば、樽口は昭和五六年四月一七日、溝端隆に右下腿部を蹴られたことが認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。
同項(10)イ、エの事実は、当事者間に争いがない。
同項(10)ウ、オの事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおりの事実を認めることができる。
同項(11)アの事実につき、(証拠略)によれば、樽口が西野所長に対し、「昨日までの混乱状態からみて、正常な勤務ができない。」旨を話したことが認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。
同項(11)イの事実につき、(証拠略)によれば、溝端隆が西野所長に対し本件命令書記載のような発言をしたことが認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。
同項(11)ウの事実につき、(証拠略)によれば、樽口は昭和五六年四月一八日にも上二病院で治療を受けたことが認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。
同項(12)アの事実は、当事者間に争いがない。
同項(12)イの事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおり認めることができる。
5(一) 第5項「本件警告書等について」で認定された事実のうち、(1)ないし(3)及び(5)は、当事者間に争いがない。
(二) 同項(4)の事実につき、(証拠略)によれば、本件命令書記載のとおり認めることができる。
三 (証拠略)並びに前記二の当事者間に争いのない事実及び認定事実を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 補助参加人組合(以下「組合」という。)は、昭和五二年一一月ころ以降、大西分会を通じ、原告会社に対し団体交渉の申入れをしているが、原告会社はこの団体交渉の申入れを現在まで一貫して拒否している。原告会社は、組合事務所や掲示板の提供、就業時間内の組合活動等の面においても組合と別組合とを差別して扱っている。原告会社は、溝端分会員らが教習所のインターバルの間に大西分会員らに対し同人らの業務を妨害する行動をしても、溝端分会員らに警告書を発したことは一度もない。
2 溝端分会は、昭和五六年四月八日以降、課長が大西分会に加入して分裂活動に加担している旨原告会社に抗議しているが、溝端分会にも課長や部長が組合員として加入している。
3 樽口、大西の両名は、同年四月一八日午前九時一〇分ころ、西野所長に対し、「今日は休む。他の者と病院へ行く。」旨を述べている。
ところで、原告会社の就業規則二八条は、欠勤手続として、「所員は已むを得ない事由により欠勤しようとする場合は予め所定の様式により所属長の承認を得て担当課に届出て所長の許可を受けなければならない。」と定め、同規則二九条は、休暇請求手続として、所員が年次有給休暇を受けようとする場合は、あらかじめ所定の様式により所属長を経て担当課に届け出て、所長の許可を受けなければならない旨定め、同規則三〇条は、欠勤、休暇手続の特例として、「突発の事由その他已むを得ない事由により第二八条、第二九条迄に定める手続を予め行う事が出来ない場合は電話電報その他の方法に依り出来るだけ速かに所定の手続を行わなければならない。」と定めている。したがって、原告会社の就業規則でも、やむをえない事由があれば、電話その他の方法による欠勤、休暇の申し出が認められており、実際にもそのような取扱いが認められていた。また、口頭、電話等により欠勤、休暇の申し出をした場合、事後に書面を提出することまで要求されているか否かは右就業規則の規定上は必ずしも明らかでない。原告会社では、従業員が欠勤した場合、同人の年次有給休暇が残っていれば、本人からの申し出がなくても有給休暇を取ったものとして処理しており、樽口、北川、大西及び梶原允雄(以下「梶原」という。)は、いずれも昭和五六年四月一八日に年次有給休暇を取ったものとして処理された。また、同規則六五条は、「職務上の指示命令に対し不当に従わず、所内の秩序を紊そうとしたとき」(五号)は、懲戒解雇に処す旨を規定している。
4 樽口、北川に対する昭和五六年四月一八日付け警告書には、いずれも、「あなたらの希望にあわせて、四月一五日、一六日、一七日の業務中に業務指示として合計一〇時間以上にわたり話合いの場を与えました。」との記載があるが、原告会社が業務指示で話合いをさせたのは、樽口が四月一七日、北川が四月一五日と一六日のみであり、その時間は両名とも三時間三〇分くらい(北川については一五日と一六日の合計時間)であるから、右警告書の記載内容は一部事実と異なっている。
5 大西に対する昭和五六年四月二〇日付け警告書には、「同九時四〇分頃、所長は当所より数百米はなれた所にいる三名を見つけて再度『出社して教習業務につくよう』業務命令をしました……」との記載があり、右記載は、大西が喫茶店コンパルにおいて西野所長から業務命令を受けたことを前提としているが、大西はそのころ喫茶店コンパルに行っていない。
6 昭和五六年四月二〇日に組合(大西分会)を脱退した梶原は、同月一八日、樽口、北川とともに喫茶店コンパルに赴き、就労しなかったが、同人に対しては警告書は発せられていない。
四 誓約書への署名を求めたことについて
原告は、昭和五六年四月九日に、白井、樽口に対し誓約書を示したことはなく、署名を求めたこともないと主張するが、前記二4(三)で認定したとおり、西野所長は樽口、白井に対し、あらかじめ原告会社で作成した誓約書を示し、「この誓約書に署名してほしい。」旨を述べたことが認められるから、原告の主張は理由がない。原告は、右誓約書の内容は、原告会社の全従業員が昭和五五年七月一七日に署名して原告会社に提出した経営方針に対する確認書の内容を再確認したものにすぎず、原告会社には不当労働行為意思がないと主張するけれども、前記のとおり、右誓約書は、樽口らが大西分会の組合員としての組合活動を以後自粛し、別組合と原告会社とが協議して決定した協約、協定等を遵守することを約する趣旨をも含んでいるから、このような内容の誓約書に署名するよう求めること自体、組合又は大西分会の組織運営及び組合活動に少なからざる影響を及ぼすことが明らかである。このことに、前記二記載のような別組合と原告会社間に締結されている協定、協約の内容(別組合を唯一の交渉団体とすることの確認など)、誓約書に署名を求めた時期及びその動機、更に原告会社は別組合からの団体交渉の申入れには応ずるが、組合からの団体交渉の申入れは昭和五二年一一月ころ以降拒否し続けていることなどの諸事情を考え合わせれば、白井、樽口に対し右誓約書への署名を求めたことは、同人らの属する組合の弱体化をもたらす支配介入の不当労働行為にあたり、原告会社に不当労働行為意思があったものと認めるのが相当である。
五 警告書を発したことについて
1 原告は、樽口、北川に対する昭和五六年四月一八日付けの警告書は、西野所長が在社命令を出しているにもかかわらず、同人らが職場を放棄したことが就業規則違反であると警告しているにすぎず、正当な人事権の範囲内の行為であると主張する。
しかし、前記二記載の事実及び前記三認定の事実によれば、本件警告書は、樽口及び北川が、(一)別組合の組合員と対立し、原告会社の職場秩序を騒乱させ、多くの教習生に多大の迷惑をかけたこと、及び、(二)昭和五六年四月一八日、突然業務命令を無視し、職場離脱をしたこと、を主な理由として発せられたものであること、原告会社の職場が混乱したことは事実であるが、その責任がもっぱら樽口及び北川もしくは同人らの属する組合にあったとはいえないこと、樽口及び北川が四月一八日に就労しなかったのは、前日に樽口が溝端分会員から暴行を受けたことにより正常な勤務ができないと考えたからであること、樽口は、同日午前九時一〇分ころ、西野所長に、「今日は休む。他の者と病院へ行く。」旨告げて職場を去り、同日病院で治療を受けたこと、樽口、北川及び梶原は、同日就労しなかったが、後日、原告会社により年次有給休暇を取ったものとして処理されたこと、樽口及び北川に対する各警告書の内容は全く同一であるうえ、いずれにも一部事実と異なる内容が記載されていたことが認められ、これらに、警告書が発せられた時期、別組合と原告会社間に締結されている協約、協定等の内容(別組合を唯一の交渉団体とすることの確認など)、原告会社は別組合とは団体交渉をするが、組合とは団体交渉を一切拒否していること、樽口、北川とともに喫茶店コンパルにいた梶原は、同月二〇日、誓約書に署名し、組合(大西分会)を脱退したが、同人に対しては警告書が発せられなかったことなどの諸事情を合わせ考えれば、樽口及び北川に対し本件警告書を発したことは、同人らが大西分会の組合員であること又は大西分会の組合員として組合活動をしたことを理由としてされた不利益な取扱いであり、同時に樽口らの属する組合の運営に少なからざる影響を及ぼす支配介入にあたると解するのが相当である。
したがって、樽口、北川に職場を離脱した際の手続につき責められるべき点があったとしても、右認定のような事情を考慮に入れれば違反の程度はきわめて軽微であり、これを理由として右両名に対して前記のような内容の警告書を発したことは、正当な人事権の範囲内の行為であるとはいえず、原告の主張は理由がない。
2 原告は、大西に対する昭和五六年四月二〇日付け警告書は、同人の同月一八日の就労放棄行為及び同月二〇日の無断欠勤行為に対し、文書でその自主規制を求めたものであるから、正当な人事権の範囲内の行為であると主張する。
しかし、前記二の事実及び前記三3認定の事実によれば、大西に対する警告書は、(一)大西が昭和五六年四月一八日午前九時一〇分ころ及び同日午前九時四〇分ころの二回にわたり、教習業務に就くようにとの業務命令を無視して職場を離脱したこと、(二)同月二〇日に欠勤したこと、を主な理由として発せられたこと、大西は、同月一八日午前九時一〇分ころ、西野所長に対して、「今日は休む。他の者と病院へ行く。」旨述べて職場を去ったこと、大西が同日就労しなかったのは、樽口、北川と同様に考えたからであること、大西は、同日午前九時四〇分ころ喫茶店コンパルに赴いておらず、したがって、同時刻ころ、教習業務に就くようにとの業務命令を受けていないこと、大西は、後日、原告会社により、同月一八日は年次有給休暇を取ったものとして処理されていること、大西は、同月二〇日に欠勤したが、その際、原告会社に電話で「今日も休む。」と連絡していること、同日は、溝端分会員らに対する不法行為差止等仮処分申請事件の申請人本人として、溝口及び北川とともに大阪地方裁判所に出頭するため欠勤したものであることが認められる。これらに、本件警告書が発せられた時期、別組合と原告会社間の協約、協定等の内容(別組合を唯一の交渉団体とすることの確認など)、原告会社は別組合とは団体交渉をするが、組合とは団体交渉を拒否し続けていること、大西は、当時、大西分会の分会長たる地位にあったこと、四月一八日の職場離脱の件につき、同月二〇日に組合を脱退した梶原に対しては警告書が発せられなかったことなどを考慮すれば、大西に対して昭和五六年四月二〇日付け警告書を発したことは、大西が組合又は大西分会の組合活動をしたことを理由としてされた不利益な取扱いであり、同時に組合又は大西分会の運営に影響を及ぼす支配介入にあたると解するのが相当である。そして、職場離脱もしくは欠勤の際の手続に関し大西に責められるべき点があったとしても、右認定のような事情の下にあっては、その違反の程度は極めて軽微というべきである。したがって、これが懲戒解雇事由を定めた就業規則六五条五号に該当しないことはもちろん、これを理由として前記のような内容の警告書を発したことは、梶原や溝端分会員らに対する原告会社の態度と比べて厳格に過ぎるものであり、正当な人事権の範囲内の行為であるとはいえない。よって、この点に関する原告の主張も採用できない。
六 以上によれば、白井、樽口に対し誓約書への署名を求めたことは、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為であり、また、樽口、北川に対し昭和五六年四月一八日付け警告書を発したこと及び大西に対し同月二〇日付け警告書を発したことは、同法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であるから、本件命令に所論の違法はなく、本件命令は正当である。
よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢﨑博一)
別紙(二) 命令書
再審査申立人 寿自動車株式会社
代表取締役 永田栄吉
再審査被申立人 全国一般労働組合大阪府本部
全自動車教習所労働組合
執行委員長 家田保
主文
本件再審査申立てを棄却する。
理由
第1 当委員会の認定した事実
1 当事者等
(1) 再審査申立人寿自動車株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地(略)に本社をおき、藤井寺自動車教習所(藤井寺市小山二丁目一三番一号所在。以下「教習所」という。)の経営等を目的とし、教習所にて自動車運転免許証取得のための技能指導等を行っており、当審における審問終結時の従業員は四九名である。
(2) 再審査被申立人全国一般労働組合大阪府本部全自動車教習所労働組合(執行委員長家田保。以下「組合」という。)は、自動車教習所関係の労働者一〇九名で組織する合同労組であり、会社には、当審における審問終結時従業員三名で組織する藤井寺分会(分会長大西鶴雄。以下「大西分会」という。)がある。
(3) 会社には、大西分会のほか、自動車教習所関係の労働者約二四〇名で組織する合同労組である総評全国一般労働組合大阪地方連合会全自動車教習所労働組合(執行委員長杉岡克己。以下「別組合」という。)の藤井寺分会(分会長溝端隆。以下「溝端分会」という。)があり、溝端分会の分会員は、当審における審問終結時約三〇名である。
2 組合と会社間の労使関係等
(1) 昭和五二年五月頃、総評全国一般労働組合大阪地方連合会で分裂があり、これにともない、総評全国一般労働組合大阪地方連合会全自動車教習所労働組合が分裂し、上記のとおり家田保並びに杉岡克己をそれぞれ執行委員長とする二組合に分かれたため、会社には大西分会と溝端分会が併存することになった。
(2) 大西分会は当初大西鶴雄一名であったが、昭和五三年一〇月教務課長樽口弘(以下「樽口」という。)が加入し、昭和五六年三月には、同分会員は七名になった。
(3) 組合は、大西分会を通じ、会社に対し、昭和五二年一一月九日から昭和五六年四月四日までの間、賃上げ並びに一時金等の要求書を提出し、その都度口頭又は文書で、団体交渉を申し入れていたが、会社はこれを拒否していた。
(4) これについて、昭和五六年四月一七日、組合は大阪府地方労働委員会に対し、不当労働行為救済申立て(大阪地労委昭和五六年(不)第二二号)を行ったが、同委員会は同年九月一八日、会社に対し団体交渉を命ずる旨の救済命令を発した。
会社は、これを不服として当委員会に再審査申立て(五六年(不再)第五九号)を行ったが、当委員会は昭和五八年四月六日付けで、初審命令を支持し、会社の再審査申立てを棄却した。
3 別組合と会社間の労働協約等
(1) 昭和五二年三月二五日、別組合と会社をはじめ株式会社津守自動車教習所、株式会社松筒自動車学校、株式会社阪急自動車教習所及び株式会社東大阪自動車教習所の五社は、共通する賃金、その他の労働条件について、統一交渉を実施することを主な内容とする協約を締結した。
(2) 同年七月一日、会社を含む上記五社は、別組合に対し「<1>総評全国一般労働組合大阪地方連合会全自動車教習所労働組合とは、委員長杉岡克己が代表する組合であり、それ以外のものは同組合として取り扱わない <2>従って、同組合名を使用した他の組合との文書交換及び賃金、労働条件の取り決めは一切行わない」旨を記載した確認書を差し入れた。
なお、組合と別組合は、分裂後も昭和五五年一〇月中旬まで同一名称であった。
(3) 昭和五三年一二月一三日、別組合及び溝端分会と会社間で、年末要求について「<1>会社は組合(注、別組合)と合意した賃金、労働条件その他については、非組合員にもすべて適用するが、そのために合意事項を徹底させ、遵守させる。万一これに違反した職員に対しては、会社は厳重な処分を行う <2>会社は、教習所内に混乱を持ち込み、正常な労使関係を妨害する者に対しては、教習所の正常な運営を保つために、会社の責任において、厳重な処分を行う」旨を定めた協約を締結した。
(4) 昭和五四年三月一日、溝端分会と会社間で「組合(注、別組合)と会社は、組合結成以来唯一の交渉団体であることの確認及び上記(2)の昭和五二年七月一日付け確認書並びに上記(3)の昭和五三年一二月一三日付け協定書第一項及び第二項に基づき <1>会社における賃金・労働条件等の決定については、従来通り組合とのみ行い、その合意は全従業員に差別なく適用する <2>労働者の雇用条件として、ア会社は不当労働行為を行わず、違反者については厳重に処分する イ会社は組合以外の団体(労働組合の機能を有するもの)は認めず、これをつくり又はつくらせ或は加盟させたりしない <3>万一この協定に反する行為があった場合は会社はその行為者を解雇する」旨を定めた協約を締結した。
(5) 同年四月一日、別組合と会社間で「<1>労働者の雇用条件として、ア会社は、組合(注、別組合)以外の団体(労働組合の機能を有するもの)をつくりつくらせ或は加盟させたりしない イ会社は、前項を含め、職場を混乱させる行為者は、雇用契約を解除する <2>会社は、この旨を全従業員に周知徹底させる」旨を定めた協約を締結した。
4 本件労使紛争等について
(1) 昭和五六年四月四日、樽口は会社に対し、組合の要求書とそれに基づく団体交渉申入書及び同分会員七名の氏名、役職名を記載した文書を提出した。
(2) 同月八日、教習所所長兼専務取締役西野光治(以下「西野所長」という。)は、大西分会員である技能課長白井英一(以下「白井」という。同人は、昭和五六年四月一六日、組合を脱退し、その後別組合に加入した。)を事務所に呼んだうえ「溝端分会から、課長が分裂活動に加担しているとして、抗議を受けている。課長は組合活動を自粛してほしい。」旨述べた。
(3) これに対して、同日組合は、西野所長に「組合規約は身分、職制による加入制限をしていない。白井に対する西野所長の発言は、組合に対する不当な支配介入であり、抗議する。」旨を記載した抗議文を手交した。
(4) 会社では課長に対して、賃金等労働条件で、特別な待遇をしていないし、課長にはその部下もいない。
(5)ア 同月九日午前一〇時五〇分ごろ、西野所長は再び白井を事務所に呼び、さらに午前一一時五〇分ごろからは、樽口も呼び寄せ、両名に対し、「溝端分会から、課長が分裂活動に加担しているとして、抗議を受けている。とにかく、何とか収拾を図らなければならないので、どういう具合にしたらよいか、課長としての意見を聞かせてほしい。」旨を述べたうえ、溝端分会からの抗議申入書と、あらかじめ会社で作成した誓約書とを示し「溝端分会が、ストライキを打つと抗議しているから、反省してこの誓約書に署名し、謝罪してほしい。」との旨述べた。
イ 会社が作成した誓約書は、会社並びに別組合宛となっており、それには「先般来私が行ってきた言動については本日限りをもって整理し、五五年七月一七日付会社提案の経営方針を確認し、署名した立場に立ち返り会社と労働組合(注、別組合)が協議して決定した協約、協定など諸事項を遵守することを約します。今後もこれらに違反し、会社運営に障害を与えたり、職場を混乱させたり、労組に対する不当労働行為と見られる言動や、団結と統一を妨害するようなことがあった場合は私みずから当社を退職し、責任をとることを確約いたします。」と記載されていた。
ウ その際、常務取締役永田実(以下「永田常務」という。)も立ち会っていたが、白井、樽口は、西野所長及び永田常務に対し「私たちは何も悪いことはしていないし、正当な組合活動をしたからといって、責められるいわれはない。」「溝端分会が混乱を仕向けているのであるから、会社は、同分会に厳重に注意しなさい。」等と述べ、結局誓約書には署名しなかった。
エ 同日午後二時四〇分ごろから、溝端分会員らは、白井、樽口に反省がないことを主な理由として、会社に対して抗議行動を開始した。
オ 同時刻ごろ、大西分会員六名が会社内のガレージに集っていたところ、溝端分会長及び奥田副分会長(以下それぞれ「溝端」、「奥田」という。)を含む溝端分会員二〇数名が来て、口ぐちに大西分会員に悪口雑言をあびせた。
カ 同日午後三時ごろ、永田常務は、大西分会長(以下「大西」という。)と樽口に対し「会社が、組合から受け取った抗議文を組合に返還したら、溝端分会は、抗議行動を中止するとの申入れがある。」旨述べたので、教習生に迷惑をかけると判断した両名は、四月八日に手交した組合の抗議文に会社が見たということの印鑑を押してもらい、返還を受けた。
キ また、そのころ会社内には「教習生のみなさん、ただ今抗議しているのは、職場を混乱させている裏切り分裂分子に反省を求めているのです。」と記載した溝端分会の掲示がされていた。
ク 同日教習終了後、白井、樽口は会社から呼び出され、大西及び大西分会副分会長梶原允雄(以下「梶原」という。)と一緒に事務所に行った。そこで、西野所長並びに永田常務は、樽口らに対し、別組合からの抗議申し入れ書を示し、さらに、四月四日に組合が会社に提出した要求書とそれに基づく団体交渉申入書及び同分会員七名の氏名、役職名を記載した文書を返還した。それに対して樽口らは、「これは不当労働行為になりますよ。」と告げると、西野所長は「大の虫を生かして小の虫を殺す。」旨述べた。またその際、西野所長は、白井、樽口に対して「四月一〇日付けをもって課長職を解任し、処分は保留する。」旨述べた。
なお、同人らは現在も課長職のままである。
(6) 同月一〇日からは、ほとんど連日にわたり、インターバル(車輛整備その他教習のための一〇分間の準備時間帯)等において、溝端分会員らが、大勢で大西分会員を個別に取り囲み、ハンドマイクを使用して「あほ、ぼけ、かす、裏切りもん」などと叫んだり、教習生と大西分会員が同乗中の教習車に溝端分会員らが強引に乗り込み、また車を取り囲んで、大西分会員を車から引きずりおろすなどの行動をとった。
(7)ア 同月一五日、溝端分会員らは、大西分会員北川照夫(以下「北川」という。)が運転している教習車を取り囲み、運転席のドアをあけて、同人に「外へ出ろ」等と叫んで、同人の教習業務を妨害した。
イ 大西分会員らが、これに抗議したところ、会社は、同日の勤務時間中に樽口、北川及び梶原に対し、それぞれ一時間を与えて、溝端分会員らとの話合いを命じたので、上記三名はそれに従った。
(8) 同月一六日も、会社は前日と同様に樽口、北川及び梶原に対し、勤務時間中に、それぞれ二時間三〇分を与えて、溝端分会員らとの話合いを命じたので、上記三名はそれに従った。
(9) 西野所長は、その頃溝端分会の三役に対し「抗議行動をしないよう」要請していたが、同分会は「話合いの期間中は抗議行動はしない。しかし、会社との協約に基づき、溝端分会が抗議を行うことは権利であり、大西には抗議する。」旨述べていた。
(10)ア 同月一七日午後〇時四〇分ごろ、樽口は、大西が溝端分会員らに取り囲まれているのを目撃し、携帯の写真機でその現場を撮影中、これを見付けた同分会員らは「何故無断で写真をとるのか」等と叫んで、樽口の肩をこずいたり、前面に立ちはだかったりして、執ように写真機を取り上げようとした。これに強く抵抗していた樽口は、その際、右下腿部を蹴られた。
イ その後間もなく、樽口及び梶原は、西野所長に対し「就労できる状態ではないので、帰宅して、大西分会員らと相談したい。」旨告げたところ、同所長は「賃金を支給するから、会社外で、話し合うよう。」命じた。
ウ そこで、樽口及び梶原は、当日有給休暇をとっていた北川を呼び寄せ、午後二時四〇分ごろから午後六時過ぎまで話し合ったが結論はでなかった。
エ 樽口及び梶原は、午後六時三〇分ごろ帰社し、西野所長に対し「樽口、梶原及び北川の三名で相談したが結論はでなかった。」旨を告げた。これに対し、同所長は、「明日も引き続いて話合いをしたらよい。」と述べた。
オ 同日午後一一時ごろ、樽口は、上二病院で治療を受けたが、「右下腿挫傷、約三日間の加療を要する」との診断であった。
(11)ア 同月一八日(土曜日)大西と樽口は、午前九時一〇分頃出勤し、教習生に検定の説明をしていた西野所長に対し、一分か二分ぐらい申し入れしたいけれどもよろしいかと断って、「昨日までの混乱状態からみて、到底正常な勤務ができない。」旨抗議したうえ、樽口は「病院へ行く」旨告げ、大西は「樽口と共に病院へ行きたい。」旨述べた。これに対し、同所長は「けがをしたのなら少し待て。もう少しで業務が終わるから、それが終わった時点で話を聞く。」と言って検定の説明を続けた。しかし、大西と樽口は、溝端分会員らが近くに寄ってくる気配を察して、急いでその場を去った。
イ 同日午前九時四〇分ごろ、樽口、北川及び梶原の三名が教習所近くの喫茶店「コンパル」で相談中、これを知った西野所長は、溝端分会員下園度海(以下「下園」という。)が運転する自家用車で来て、喫茶店横の路上で、上記三名に対し「職場放棄になる」「溝端分会員らと話し合え」等の発言をした。やがてその場へ溝端と奥田が来た。溝端は、同所長に対し「専務、業務命令と言ったか、業務命令だと言えばそれだけでよい。」と発言したが、間もなく、同所長、溝端及び奥田は、下園が運転する車に同乗して帰った。なお、大西は、上記の喫茶店には行かなかった。
ウ 同日、病院で治療を受けた樽口のほか大西、北川及び梶原は、就労しなかった。
(12)ア 同月二〇日、大西、樽口及び北川は、後記(第1、5、(3))のとおり大阪地方裁判所での仮処分申請について、申請人本人として出頭するため、欠勤した。なお大西は、その際会社に対し、電話で「今日も休む」と連絡をしていた。
イ 同日、梶原は上記(第1、4、(5)、イ)と同一内容の誓約書に署名して、組合を脱退した。
5 本件警告書等について
(1) 昭和五六年四月一八日、会社は樽口及び北川に対し、警告書を郵送したが、当該文書には、「あなたは、昭和五六年四月八日突然当教習所に存在する労働組合員である従業員らと対立し、職場秩序を騒乱させ、多くの教習生に多大の迷惑をかけています。会社は、双方対立の理由や原因以前の問題として、あなたに企業存続に尽力する立場で正常化を誓約して欲しいと要請し、あなたらの希望にあわせて、四月一五日、一六日、一七日の業務中に業務指示として合計一〇時間以上にわたり話し合いの場を与えました。そして四月一七日午後七時(明一八日も話し合いを業務中に続けるよう)指示したにもかかわらず、四月一八日突然業務命令を無視し、職場離脱をしました。これら一連の行為に対し、会社は、このような行為を即刻やめるよう厳重な警告をします。」と記載されていた。
(2) 同日二〇日会社は、大西に対し、警告書を郵送したが、当該文書には、「あなたは、昭和五六年四月一八日(土)午前九時一〇分頃出社し、突然会社に対し『休ませてくれ』と申し出ました。他にも同時にあなたと行動を共にしている二名からも同様の申し出を受けました。会社は、既に予約し配車している教習生の振替や取り消しが困難な事と、休む理由が明確でないことを指摘し、『教習を行なうよう』業務命令を行いました。しかし其の後、所長が業務遂行中にあなたら三名は職場を離脱してしまいました。同九時四〇分頃、所長は当所より数百米はなれた所にいる三名を見つけて再度『出社して教習業務につくよう』業務命令をしましたが無視し、同月二〇日に至るも、同日朝電話で『今日も休む』とのみ連絡し、欠勤を続けています。あなたのこのような行為は、教習生と会社に甚大な迷惑と損害を与え、教習所のもつ社会的公共的使命を裏切り、当所の社会的信用の失墜につながるもので、到底容認出来るものでありません。特にあなたは、昨年八月五日教習生傷害事故で、当所の信用を落し、損害を与え、処分されたばかりです。就業規則違反など誤りを直ちに反省し、職場を混乱させない誓約をして、すぐ業務につくよう厳重に警告します。」と記載されていた。
(3) 同月二〇日、大阪地方裁判所において、申請人大西、北川、樽口及び梶原と被申請人溝端、奥田、下園、森真純、仲山哲司及び前田道人との間の人格権等に基づく不法行為差止等仮処分申請事件についての決定がなされたが、その主文は「<1>被申請人らは、自己もしくは第三者をして申請人らに対し、(ⅰ)集団で取り囲む、進行方向に立ちふさがる (ⅱ)大声で悪口雑言をあびせる (ⅲ)殴る、蹴る、体当りをする、肩をこずく、つばをはきかける、乗っている自動車のドアをたたき、ドアをこじあけて外に引き出すなどの監禁、侮辱、暴行などにわたる行為をしてはならない。<2>被申請人らは、自らおよび第三者をして、面会の強要、架電およびこれらに類する行為で、申請人らおよび申請人らの家族の私的生活の平穏を害するような一切の行為をしてはならない」等であった。
(4) 同月二二日ごろ、教習所内に「大西、樽口、北川の分裂第二組合は許さない。手を貸すものとも断固闘う!!総評全国一般大阪地連全自教労組」と記載した看板が掲げられた。
(5) 本件初審救済申立て後は、大西分会員と溝端分会員間には、教習所内で暴力行為は発生していない。
第2 当委員会の判断
会社は、会社が昭和五六年四月九日に白井、樽口の両名に対し、組合活動の自粛を求める誓約書に署名を求めたこと、樽口、北川及び大西に対し、同月一八日付け及び二〇日付けでそれぞれ警告書を発したことをいずれも不当労働行為に当たるとした初審判断を不服として再審査を申し立てているので以下判断する。
1 誓約書について
(1) 会社は、昭和五六年四月九日に組合主張のような誓約書を白井及び樽口には示していないし、署名も求めていない。また、その内容が不当労働行為と目されるものではないと主張する。
(2) しかしながら、同年四月九日に西野所長が白井、樽口両名に誓約書を示し、署名を求めたことは前記第1の4の(5)ア認定のとおりであり、同日誓約書は示さなかったとする会社の主張は採用できない。
(3) 次に誓約書を求めた経緯及びその内容についてみると、まず、前記第1の2及び3認定のとおり、組合分裂以降会社は、別組合との間に唯一交渉団体約款をはじめ、「会社は組合(注、別組合)以外の団体(労働組合の機能を有するもの)は認めず、これをつくり又はつくらせ或いは加盟させたりしない。万一この協定に反する行為があった場合は会社はその行為者を解雇する」等の協定を順次締結してきていることが認められる。
このような事情のもとで、前記第1の4の(5)ア認定のとおり、西野所長が「溝端分会が、ストライキを打つと抗議しているから、反省してこの誓約書に署名し、謝罪してほしい」旨述べたことから察するに、大西分会の分会員が七名に増加したことから、別組合が上記協定に則り、組合を否認することを会社に承認させるべくストライキを構えるに至り、会社は、そのストライキを回避するため本件誓約書の署名を求めたものと認められる。
また、誓約書の内容は、前記第1の4の(5)イ認定のとおり、「会社と労働組合(注、別組合)が協議して決定した協約、協定など諸事項を遵守することを約します。」などとなっており、このことは、別組合の団結のみを唯一のものと認めたものであって、これに従うとすれば、組合活動の自由が拘束されるようなものである。
したがって、本件誓約書への署名を求めた会社の行為は、会社が別組合のストライキを回避するための苦しい措置とはいえ、組合の存在の否定にもつながるものであり、組合運営に対する支配介入行為といわざるをえず、これを不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
2 警告書について
(1) 会社は、昭和五六年四月一八日付けの樽口及び北川に対する警告書は、同人らが四月一八日に西野所長の在社命令に反し職場を離脱したことについて、また、同月二〇日付けの大西に対する警告書は、同人が樽口らと同様四月一八日に職場離脱したこと及び同月二〇日欠勤したことについて、それぞれ警告したものであって、労務管理上の正当な措置であり、何ら不当労働行為として問責されるものではないと主張する。
(2) しかしながら、本件警告書が発せられた経緯についてみると、前記第1の4の(5)ウ、オ、キ、(6)、(7)ア及び5の(3)認定のとおり、樽口らが上記誓約書に署名しなかったことから、別組合が組合の活動を分裂活動ときめつけ、いわゆる糾弾行為を開始し、職場に混乱が生じたところ、会社は、職場の混乱はもっぱら組合の責任であるとして、同誓約書問題に引続いて本件警告書を発するに至ったものと解するのが相当である。
会社が職場秩序の回復を願うことは理解できないものではないが、本件のように労働組合間の対立によって生じた職場の混乱の責任を、一方的に、組合にのみ負わせることによって、紛争を収めようとしたことは、使用者として公平な態度とはいえない。この点について、会社は、労務管理上の措置であると主張するが、誓約書に署名して組合を脱退した梶原について何らの措置をもとっていないことからみて、会社の主張は採用できない。
したがって、樽口らに責められるべき点があったとしても、結局、上記1の誓約書についての判断と同様、会社が本件警告書を発したことは、会社が別組合との事情から、樽口らの組合活動を牽制する意図のもとになされたものと判断せざるをえず、これを不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
以上のとおり、本件再審査申立てには理由がない。
よって、労働組合法第二五条及び第二七条並びに労働委員会規則第五五条の規定に基づき、主文のとおり命令する。
昭和五八年六月一五日
中央労働委員会
会長 平田冨太郎